前編では日米のストーリーボード文化の違いと、ULTOの設立背景について語りました。後編では、日本のIPを世界に届けるビジョン、AI時代におけるストーリーボードの価値、専門性を極めることの重要性、そしてキャリア選択における消去法のアプローチについて語ります。
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前編では日米のストーリーボード文化の違いと、ULTOの設立背景について語りました。後編では、日本のIPを世界に届けるビジョン、AI時代におけるストーリーボードの価値、専門性を極めることの重要性、そしてキャリア選択における消去法のアプローチについて語ります。
ユイアメリカに在住しながら日本に会社を設立して、日本のIPの可能性とアメリカの市場については、どう考えてますか?
ヨーヘイ(例えば)マーベルがアメリカンコミックだけども、アメリカンコミックって絶対にスーパーヒーローじゃなきゃいけないっていう呪縛みたいなものにかかってて。これはバットマンを描かれていた方も言ってることなんだけど。
でも日本の漫画っていうのは、釣りをしてる人が主人公だったりとか、何でも主人公になれる、主婦だろうが何でも関係ない。ジャンルに壁がないんですよね、日本の漫画って。
だからその漫画をベースとして映像が作られている、エンタメが作られている日本っていうのは、はっきり言って金脈だと思うんですよ、世界から見たら。こんなにすごいハイペースでストーリーを大量生産してるのって本当に日本くらいなんですよ、絶対に。
しかも、そこの良さに近年世界が気づいてしまっているっていう状態になっていて。グローバル化とは言っても一筋縄ではいかない中で、今がその時なのかなと。コロナ禍とかもあってオンラインミーティングやリモートワークが当たり前になったっていうこともあるし、あとは例えばイーロン・マスクはアニメ大好きだったりとか、お金を持ってる投資家とかももうオタクになってきていて、昔のように「ドラゴンボール?なにそれ?」ではなくなってきている。
ワンピースの実写とかも結構しっかり作られていて、かなりいいものだったと思うんですよ僕。ああいったものがこれから増えていくと思うんですよ。その時に自分の大好きなタイトルとかが映像化するんだったら「こういうクオリティで出して欲しい」みたいな、ファン的視線で考えた時に「だったらやりたいな自分」っていうのがメインのモチベーションになってますね。
ユイヨーヘイくんがやろうとしていることは、日本の作品をアメリカに、世界に届けたいってこと?
ヨーヘイ両方ですね。日本の作品をアメリカに、世界に届けたいっていうのと、時間をかけて良いものを作るっていうのを実現したいので、クオリティとお金に関しては日本国内に留まらず欧米も巻き込んで取り入れたいって思ってるんですよ。僕は25歳まで日本で育っていて日本のスタイルはもともと染みついているので、更にアメリカのワークフローも少し入れて、いいとこどりしたいなっていうのが結構ありますよね。
ユイ具体的にどんなものをつくりたいとかってある?
ヨーヘイ日本の2Dアニメは視聴者として凄く好きなんですね。原作は原作の良さがあって、CGにはCGの別の良さがあると思っていて。漫画とアニメの違いのように、アニメは漫画より想像する余地は少なくなるけど動いていて声も聞こえて、それの良さがあるじゃないですか。それは解像度の違いだと思っているんですよ。それがCGになるともっと解像度が上がるけど、実写程は解像度高くないじゃないですか。その間の感じがとても好きなんですよ。
前から言っているんですけど、日本の作品の中でも特にベルセルクがすごく好きで、やれたら良いなと思っています。僕の夢ですね。
ユイ日本の作品を世界に届けるために、ストーリーボードはどのような役割を果たすと思いますか?
ヨーヘイストーリーボードは絶対に欠かせない要素だと思います。いろいろAIによって自動化が進む中でも、非常に自動化しづらい部分って、物語をどうやって画にしていくかというストーリーの部分だと思うんですよ。
「この画を見た時、人はどう感じるか」という感覚的な部分は、やはり人が一番わかっている部分なのかなと思ってて。ディレクション、つまり「こういうものを作りたい」というのが人にあるじゃないですか。そこまでAIに任せてしまったら、人が全く関わっていないから、勝手にできあがっても誰も楽しくないし、つくる意欲すら湧かなくなってしまうと思う。
「こういうものを作りたい」という意欲と、それを実現するプロセスに近ければ近いほど、そのポジションはこれから先も残っていくと思うんですよ。アニメーションも演技なので、この時このキャラクターにこういう気持ちでこう演技して欲しい!という願望があるからこそそれを画にするわけじゃないですか。そこは自動化が難しいというか、恐らくつくり手にとって最も自動化したくない部分だと思うんですね。
ストーリーボードというプロセスはディレクションにかなり近いので、今後もずっと存在し続けていくポジションだと僕は思っています。
ヨーヘイ氏の誕生日を祝う。
ユイヨーヘイくんから見て、SOIFULのどんなところを評価してくれてる?
ヨーヘイ自分もストーリーボードを描くのでわかるんですが、本当に乱雑に見える絵を描いているようでも、それにはすごく時間がかかるわけで、精神力も使うし、描いてるだけじゃなくて頭でも色々思考してるっていうのもあるから。
そのプロセスをやってくれるっていう中で、時間と思考を割いて出来上がってくるものを見たときに、その短時間の制約の中で作れる限界っていうのを出すときに、エネルギーの配分みたいなのが大事なんですよね。
ここに力を割いてもしょうがねえじゃんっていうところはできるだけ抜いて、ここが大事なポイントだよねってところに力を振ってくっていう。そこって経験値が物を言うと思うんですよ。
まだ経験が浅い所に(ストーリーボードを)頼んだとすると、そういったトラブルも起きてくると思うんですよ。例えば、丁寧に描きすぎて、ここをこうして欲しいと依頼したときに逆に「これで通ると思ったのに……」と精神的にダメージを負ってしまったり。そうすると、あなたの仕事はそれじゃないですよ、となってしまう。
(SOIFULは)そう感じることが今の所一切なくて。それはやっぱり何を持ってくるべきなのか、何が求められてるのかってことは分かってるからできてると思うんですよ。でもそこって、目に見えないんですよ受け取る側から、普通にできてしまって上手くいっているから気付けない。
ユイ自分では気づいていなかったけど、そう言ってもらえてホッとしました。さっきのDisneyのスピード感っていうのはまさにここに繋がっているのか。それで思い出したのは、Pixarのアーティストにポートフォリオを見せた時のことを思い出しました。丁寧に描いたストーリーボードを見せたら、「きれいに描いたらストーリーアーティストじゃない」と怒られて。「ラフに描け!」と言われたんです。
ヨーヘイまさに、現場で本当に求められているのはそこじゃないんですよね。
ユイでは、SOIFULのような専門チームに対する期待はありますか?
ヨーヘイ結局プロフェッショナルってみんな時間をその職種に対して割けば割くほど洗練されていくと思うんですよ。
例えば僕アニメーターで14年くらいかな、やってるわけだけど、そうやってやっていく中でその属性でずっといればいるほど脳みそもそっちに使うわけだから深みが増していくじゃないですか。
Disneyとかで働いてもそうだけど、周りを見渡すときにストーリーボードのすごい人、コンセプトアートのすごい人に出会うと、自分が過ごしたこのアニメーターとして過ごしてきた時間、その十何年っていう学びの期間っていうの、この人はこっちの分野に割いてきたんだなみたいなのを垣間見るわけです。
やっぱり違うベクトルでものすごい時間を思考に割いてきた人たちだから、自分からしたら100%絶対たどり着けない場所にいるっていうか。そういう人たちに会ったときに「向こうの島にはこんなすごい奴らがいるんだ」みたいなことを感じて。
だから「餅は餅屋」じゃないけど、そういう専門家に任せるべきみたいなのあるじゃないですか。
SOIFULの働いてる皆さんには本当にストーリーボードと向き合って、本当にストーリーボードだったら絶対に任せてくださいじゃないけど、そういう、こっちでは手が届かないところまで手が届いてほしいっていうか。そういう集団になっていくと思うんですよ。これからどんどんさらに深みを増していくとか、そこに集中した思考を持つことによって、それにしかできない域っていうのが絶対あるんですよね、深みっていうか。
ユイプロフェッショナルと言うと、ヨーヘイくんがBlizzard、Disney、Epic Gamesで働いていた時、そこに働くアーティストたちを見てどんなことに驚いた?
ヨーヘイそれはもうやっぱり本当に、単刀直入に言うとすごい天才たちがいる。自分はアニメーションに十何年という時間を使って学んできた人間っていうので、その分野の知識があるわけだけども、同じように積み上げてきたものを持ってる人たちが別分野にいるっていう。怪物なんですよ本当にみんな。
だから純粋にすごいなって、それを見てなんか悔しいとかも思わない、全く。他のアニメーターに対してすら思わないですね。リスペクトですよね。この人本当にこれが好きでやってるんだなっていうのが伝わってくるので。
あとみんなどっかおかしいですねやっぱ。個性強めっていうか。その一つに対してものすごい時間をかけた人たちだから、サクサクっと試しにやればできるようなことじゃないことをやってるからみんな。その一つのことに対してそこまで執念というか、もう没頭したんだろうなっていうのが全員こぞってそうなわけじゃないですか、一人一人が。それってなかなか見る光景じゃないから。天才ともいえるし、Crazyだよ。
結局生きてきた人生経験がそのまま作品ににじみ出るというか。あれはね、見ていて痛快だし面白いし、その人の生きてきた片鱗を見るというか、それがすごく面白いですよね。
第一回Tokyo Anim Uniteの下見。
ユイ若い世代に向けた話も少ししたいんだけど、そういえばヨーヘイくんはアカデミー・オブ・アートで何を勉強してたっけ?
ヨーヘイアカデミー・オブ・アートは何でも触らせてくれる学校だったじゃないですか。自分が何やるかも決めてなくて、映画関係の何かに関われればいいやぐらいのざっくりで行ったんで。
結果、とりあえず全部触って「君それ上手だね」と言われたりとか、時間を消費してて全く苦にならないのってどれだろうっていう消去法で自分は挑んだので。元々そういうプランだったんですよ。自分がやりたいことよりも社会から求められることをやろうと。
ユイ消去法だったんですね。
ヨーヘイそう。選ぶのではなく、勝手に残るものを見つけようと。
フィギュアドローイングやスカルプチャーなど全部試して、最初はモデラーになるかと思ってた。でも2Dアニメーションのクラスを受けたら、思いのほか楽しくて。
8人か10人のクラスで、俺一人だけが最後11時くらいまで残って描いてて、別に残ろうと思ったわけではなく、夢中になって描いていたら、気づいたら誰もいなかった。その時に「このクラスの中で、これほど没頭できるのが自分だけなら、プロになれるはずだ」と確信した。
ユイ自分は何ができるんだろう、と悩んでいる若い人たちに伝えたい話ですね。
ヨーヘイやりたいことっていうのはあるだろうけど、消費する側と作る側って違うじゃないですか。僕が良く話すのは、牛丼が好きだからと言って牛丼の世界一のシェフになろうとは思わないでしょ?って。それは食べる側と作る側が全く違うってわかってるからじゃない。それがわからないうちから、絶対自分はこれになるって決め込まない方が良いよって伝えてる。
ユイ例えば、自分はものづくりで仕事したいと考えていたけど、自分がその道に向いていないと気付いてしまった時にすごくショックを受けるじゃない。そんな自分を認めたくない時に、どんな風に背中を押してあげる?
ヨーヘイその自分の理想と現実のズレによって、自分がそれを受け入れなければいけない時は誰にでもよくある。それが偶然自分のやりたいことと向いていることがマッチすることもあるんだけど、超一握りであんまりないんだよね。でも、結局みんな最終的には幸せになりたいんですよ。幸せだったら何だっていいじゃないですか。何が幸せなのかとなった時に、それは自分の理想通りの生き方と言うよりは、単純に誰かに喜んでもらえることが一番幸せなんですよ。それは僕の持論ですけど。そこが欲しいな、と思えたときに、シフトチェンジってカチッとできちゃうんですよ。
自分も元々は音楽家になりたくて、B'zのようなバンドマンになりたいという願望があったから。それが無理だと分かった時はすごくショックで、認めたくない自分と何年も一緒に過ごしたんで、僕も。
その中で、「これじゃなくてもいい」と思えるきっかけがあったんですよね。それは人の役に立てた時だったんですけど、本当に誰かの人生に影響を与えるレベルで役に立てて感謝された時、そのエゴが解消されて、それで「生きていていいんだ」と思えた時、「じゃあ、みんなが俺にやってほしいことをやろう」、それが自分の特性なんだろうなと思った。
ユイ最後に、ストーリーボードを使うべき会社やプロジェクトって、どういったところだと思う?
ヨーヘイ脚本があって、ストーリーに対して少し自由度持たせた上で、もっと良くしたいとか、映像化する上で第一ステップとして助けてほしいっていう時に、(SOIFULに)聞いてみるのがいいんじゃないかなと思いますよね。
ストーリーボードっていうものの、多分、一番まだ十分理解されてない部分って、物語、つまり「物」を「語る」っていう部分だと思うんですよ。ストーリーアーティストを使うことによって「物」を「語る」っていう部分がまず第一ステップであって、そこの重要性。絵の綺麗さとかじゃなくて、連続の画を見た時に「何を感じますか」っていう部分を先に決めておけるということの重要度っていう。
脚本の時点で面白いっていうのはすごく大事なことなんですけど、ただその脚本だけで全てが決まるわけではないので、そこのファーストステップとして、より良い物語を作る上で、ストーリーボードっていうのはめちゃくちゃ大事になってくる。肉付けしていく上で、この第一ステップとして使うっていうのが一番正しいストーリーボードの使い方だと思うんですよね。
じゃあそこが専門じゃないんで分からないんでお願いしますっていう時に、専門家っていう形で頼れるのがSOIFULだと思うので。これから多分もっと広がっていくと思うし、さらにその専門家として活躍してほしいなっていうのがありますよね。
ユイ今回はヨーヘイくんの貴重な話をたくさん聞かせてもらってとても良い時間でした。ありがとうございました!